この記事では、とても奥が深いゴールボールの魅力と、どうしてこの競技が生まれたのか、その背景について解説していきます。
「音のだまし合い」「静寂の格闘技」などと言われ、スピード感あふれる頭脳的で激しいスポーツです。
パラリンピック尾の中では、唯一、健常者・晴眼者が行う競技をアレンジしたものではない、独自性の高い競技です。
ゴールボールの魅力と試合中の見どころ
ゴールボールは、社会的に弱い立場にある人々を含めた、一人一人を援護し、社会の一員として取り込み、支え合うという考え方を元にしたチームスポーツです。空間認識力、コミュニケーション力、自信を向上させることを目的としたスポーツです。
ゴールボールの魅力
ボールを転がし合うだけですが、音を使って相手をかく乱するなど奥が深いスポーツです。
投げたボールは時速60~70kmになることもあり、その速球を受け止め、素早く投げ返すパワフルなプレーも必見です!
選手は見えていない分、試合中は選手同士お互いに声を掛け合います。視界を完全にふさいで、アイコンタクトが取れないため、今、自分がどんなことを考えているのか、どんなふうに守り、どんな攻撃をしようと考えているのか、常に声に出して、コミュニケーションを取りながら、確かめ合いながらゲームを進めていきます。
見えていないため、情報が少なく、残り時間や相手選手の細かな動き、見方選手の動きや修正などをベンチにいる控えの選手やコーチたちも声に出して伝えます。ゴールボールはプレーしている選手とベンチが一体となって戦っていることをリアルに感じられる競技だと言えます。
日本独自のテクニック
ゴールの幅は9m。ゴールを背にした選手から見て、右端から順に0~9の番号でゴールを9分割し、その番号を伝達し合います。
これは、視覚をふさいでいるため、コートの何処にボールがあるのか、頭の中で具体的にイメージできるようにするためです。
例えば、自分が投げたボールが3番と言われれば、自分から見た左(守りの相手選手から見て右)から3mのところにボールが行ったことが分かります。
真ん中(4.5m)のところに投げたい場合は「自分から見て、もう少し右(相手選手から見て左)の方向に投げるんだ」、と修正しやすくなります。
数字をつかうことで、頭の中でボールの軌道を具体的に想像でき、いろんな場面でのイメージが付きやすくなります。
選手は試合中、頻繁に数字を口にしているのを見ることができます。
ボールを投げるテクニック
選手は様々なボールを投げるテクニックを持っています。大きく弾ませる「バウンドボール」、弾まない「グラウンダ―」を使い分けています。
ボールを投げだすときの音が聞こえると、相手にボールの位置がわかってしまいます。そのため、ボールを投げようと振りかぶる動作の時に鈴の音が鳴らないように工夫する選手もいます。これは習得するのに時間がかかる難しいテクニックです。
同じように、鈴の音を消す方法として、身体を回転させる時の遠心力で音を消す、回転投げもあります。
逆に、身体を回転させる時に、わざと鈴の音を鳴らすことでボールの中で鈴がグルグル回って、音が長く聞こえるため、相手にボールが.いつ投げ出されたのかわかり辛くさせることができます。
他にも、音を消すテクニックの他にボールをバウンドさせて、相手の頭上を越すように投げるテクニックもあります。
鈴が入っているためボールがバウンドしにくく、バウンドさせようと叩きつけて投げるだけでは途中からボールに勢いがなくなってしまうため、ボールに回転をかけることでバウンドさせます。回転をたくさんかけることで相手の身体に当たった時に、その回転でボールが身体を超えてゴールすることもあります。
その他にも、相手側に音をわざと聞かせながら助走し、助走したのと反対側の方向にボールを投げる、というテクニックもあります。
ボールを投げるテクニックがいくつあるのか、数えるのも面白いと思います。
視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる
選手は自分のチームの選手の息遣い、足音なども聞きながら試合を組み立てていくいので、かすかな音がとても重要になってきます。そのため、審判が「Quiet Please」とコールしてホイッスルを鳴らしたら、声や音を出さず静かにしなければいけません。
せっかく応援に行っても声も出せず「つまらないのでは?」と思うかもしれませんが、応援のための声を出してよい場合は何かしらの合図があります。音楽がかかる場合もあります。
また、選手がボールをバンバン叩いているのは、「自分の位置はここだぞ!」「自分は今ここにいるぞ」と、周囲に教える意味もあります。
視覚は情報の8割を占めるとも言われています。それが遮断されているのですから、他の感覚をフル活動させて瞬時に状況を判断するためには、高い集中力を維持していく必要があります。
試合を見る時は自分も目を閉じて状況判断をしてみるのも面白いと思います。
ゴールボールの歴史
第二次世界大戦で目に傷害を負った軍人のリハビリテーションプログラムの一環として、ドイツで考案されました。1946年にスポーツ競技として紹介され、1976年トロント・パラリンピック競技大会で正式競技となりました。
現在では、世界5大陸に広がり、各国で取り入れられ、パラリンピックなど国際大会が実施されるまでに発展しています。
日本に初めてゴールボールが紹介されたのは1982年です。その後、1992年に日本身体障害者スポーツ協会(現在の日本障害者スポーツ協会)が1994年開催の北京フェスピック大会に代表チームを送ったことで本格的に競技規則が伝えられ、全国的に広がっていきました。
1995年には日本ゴールボール協会が設立され、第1回日本ゴールボール選手権大会が東京都多摩障害者スポーツセンターで開催されました。
その後、同大会は毎年各地で開催されているほか、同大会の予選会を兼ねた東日本大会、西日本大会などが開催されました。
日本代表チームとして国際大会に初めて出場したのは、男子が1994年に開催された北京フェス大会、女子は1999年のシドニー・パラリンピック大会最終予選会(フィンランド)でした。
それ以降、男女ともに各種の国際大会に出場しています。
ゴールボールのルール
ゴールボールは 視覚障害のある人を対象に考案された球技です。
パラリンピックや国際大会では、事前にクラス分けの判定を受けた視覚障害者でなければ出場できません。
視覚障害者のクラス分け基準(良い方の目で判断)
B1:視力が0.0025より悪い(全盲~光覚程度)
B2:0.0025~0.032まで<視野>直径10度未満
B3:0.04~0.1まで<視野>直径40度未満
1チーム3人の選手で戦います。鈴の入ったボールを投げ合い、味方のゴールを守りながら相手ゴールにボールを入れ、得点を競う競技です。ボールがゴールに入ると1点が入ります。
選手全員が視野や視力といった障害の程度の差が出ないように、アイシェード(目隠し)を着けます。
試合時間は前半・後半各12分間です。守備側の選手がボールに触ってから、10秒以内に投げ返し、センターラインを越えなければ反則になります。
コートは6人制バレーボールコートと同じ広さのコートを使います。コート内の各ラインには、床とテープの間に紐が通されていて、凹凸があります。ゴールはサッカーのゴールのようにネットが張られています。幅は9m、高さは1.3mです。
ボールはバスケットと同じ7号です。重さはバスケットボールの約2倍の1.25kgで、中に鈴が入っていて、音が鳴るようになっています。
ボールを投げた後は、攻撃側の選手は守備側の選手が不利になるような音を出してはいけません。タイムアウト以外は、ベンチにいる監督やコーチがコートの中にいる選手へ指示を出すことはできません。
視覚以外のすべての感覚を研ぎ澄ませ、音と味方の声などを頼りにプレーをしていきます。
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