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「耳をすませば」の天沢聖司のような日本人ヴァイオリン製作者はいるのか?

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純愛ストーリー「耳をすませば」

柊あおいさん原作のジブリ作品です。自分の将来についてまだボンヤリとしか思い描けていない主人公の月島雫と、中学校を卒業したらヴァイオリン職人になると心に決めている天沢聖司。

2人は最後には結婚の約束をします。まだ世の中のことを何もわかっていないからこそ突っ走れる若さがとても羨ましく、毎回観るたびにさわやかな感動が残ります。

この記事では、天沢聖司が目指すヴァイオリン職人について書いていきます。

制作秘話

原作では聖司は絵描きを志す少年ですが、映画ではヴァイオリン職人を志す少年に変更されています。
この構想は宮崎監督の中にかなり早い段階からあったようです。

「耳をすませば」の企画が上がる前に、宮崎監督はイタリアのクレモナへ赴き、ヴァイオリン工房の見学をしています。

どうしてヴァイオリン職人なのか謎ですが、この映画が放映された1995年当時は10代で留学するということはまだまだ少数派でしょうし、高校を卒業せず10代のうちに日本を飛び出し海外へ渡る、という年齢から考えると大胆な行動が、観ている人の心にさまざまな感情を呼び起こしているんじゃないかと思います。

バイオリン製作者になるには

その名の通り「ヴァイオリンを作ることを仕事にしている人」、のことです。ヴァイオリン職人になるためにはいくつか方法があります。

1,学校に通う

2,製作者の弟子になる

3,楽器店に就職して修理担当になり、その後開業

4,楽器メーカーに就職して、職人になる

5,独学で勉強する

下に行くほど製作者として食べていくことは難しくなります。

では、一つずつ見ていきましょう。

1.学校に通う

日本で学校に通う場合は、ヴァイオリン制作学校たくみ、国立音楽院、鳥取ヴァイオリン製作学校、中部楽器技術専門学校、があります。

この中で専門学校と名乗って良いのは、中部楽器技術専門学校だけですが、現在、ヴァイオリン製作の募集はないようです。

また、学校は日本だけでなく、海外の学校あります。留学となると語学が一番心配だと思いますが、ドイツやフランスの学校などは語学の資格がないと入学できなかったりします。今後は他の国の留学先でも同様に語学の資格が必要になってくるかもしれません。

留学するとなると言葉が分からない中で、とにかく自分で何とかしなければならないこと多く、語学、資金も大切ですが、度胸とやる気、そして運がものを言うと思います。

2 .製作者の弟子になる

日本には個人事業で工房を開いている方がたくさんいます。「日本弦楽器制作者協会、関西弦楽器制作者協会のホームページを確認していただければ、詳しく掲載されていると思います。

この場合大切なことは、弟子にしてもらうため、そして弟子となった後にも、親方となる人とコミュニケーションをたくさん取って信頼関係を作っていかないといけない、ということです。

やはりそこは親方も人間ですから、一緒に仕事をやり続けることができるか・・・、が重要なポイントとなります。親方がその弟子と一緒に仕事をしたくない、と思うようになったら弟子としては終わってしまいます。ちょっと怖いですがいわゆる破門ということですね。

そして、弟子になる、ということは基本、給料はもらえない、と思っていた方が良いということです。
そういう意味では精神的にも経済的にも、なかなか厳しい状態になることになります。

もちろん全ての工房で「雇用」されないという訳ではありませんが、社会的にかなりグレーな立場になることを受け入れていく必要があります。

それに、弟子を取らない、という方針で仕事をしている人もいると思うので、親方を見つけることだけでも努力が必要になってきます。

3 の楽器店に就職して修理担当になり、その後開業

ヴァイオリンの専門店は大都市を中心にいくつか存在します。ヴァイオリン専門店と謳う以上、修理、修復を必ずその店が行っています。また弦楽器を扱う商社も海外から輸入した楽器の調整のために技術者が常駐しています。

そういった専門店、商社で技術職の求人が稀にですが出ることがあります。内容はほとんどが、経験者や先に触れた制作学校からの卒業生を採用するので、入社まで漕ぎつけることはなかなか難しいのですが、全くないとは言えません。熱意と運、タイミング次第では叶わない夢ではありません。

4.楽器メーカーに就職して職人になる

私は知らなかったのですが、調べてみると日本にもヴァイオリン専門店は存在します。鈴木ヴァイオリン製造株式会社、恵那楽器、ヤマハ株式会社、杉藤楽弓社です。

3 の楽器店に就職して修理担当になり、その後開業と同じで、経験者や制作学校からの卒業生を優先的に採用するので、熱意とコネ、タイミングが必要になります。

5.独学

ヴァイオリンって日曜大工みたいに、見よう見まねでつくれるの?!、って私自身も驚きました。ここからは引用になるのですが、インターネットの普及で比較的簡単に製作の情報が手に入るようになり、独学でヴァイオリンを作ることも可能になっているようです。

ただ、入り口が広くなっているだけで、きちんとした楽器が作れるようになるには、個人の資質が大きく左右されるようです。

でも、そんな見よう見まねで作られた楽器を購入する人は、まずいないでしょう。

ヴァイオリン制作は日曜大工の延長でできる物ではありませんので、自分で作ってみた楽器を自分で使う分には全きう問題ありませんが、製品として見た場合、誰かに教わらないと守るべき点が守られていないこともあり、ヴヴァイオリンもどきのものしか作れません。

それに、大切な道具の刃物の研ぎ方さえ、正しくできているのかどうかの見極めさえ、かなり難しいのではないでしょうか。

それでも、もし独学で製作者を目指すなら、まずはたくさんのヴァイオリンを見て、どんなものなのかを知らないといけません。

できるなら名器と言われるストラディバリウスなどを見ることができればなお良いでしょう。

そのうえでインターネットの情報だけでなく、多くの書籍を読むようにすると良いのではないでしょうか。

特にヴァイオリンの情報は専門的なことになると、特に外国語で出版されているものの方がより詳しいので、洋書を読むことをお勧めします。

いかに情報が溢れているとはいえ、誰かから教えを乞うことも出てくると思います。

実際、制作者として食べていっている人でさえ、一人で仕事をしていると偏った見方や作り方をしていおるい場合もあるため、他の製作者と定期的なコミュニケーションはとても重要です。やはり日々勉強なのではないでしょうか。

以上のように、決して独学も不可能ではありません。でも、難易度は最も高くなるでしょう。回り道もたくさんすると思います。それでも志を高く持ち、自分を信じて邁進していけば、不可能ではありません。

イタリア・クレモナ

「耳をすませば」の映画の中で、聖司が雫を学校の屋上に誘うシーンがあります。そこで聖司は雫に自分は「中学を卒業したら、イタリアのクレモナという街にあるヴァイオリン制作の学校に行きたい」、という自分の夢を語ります。

すでに自分の人生を決め、夢に向かってしっかりと歩き出している聖司の話を聞いて、憧れのまなざしで聖司を見つめる雫。でも、ただ周囲が決めた「中学を卒業したら高校へ」という道を、何も疑わず進むしか知らなかった自分に動揺する雫。そんな聖司の憧れの街イタリアのクレモナとはどんな街なのでしょうか?

イタリア・クレモナはどんな街?

クレモナは北イタリア・ロンバルディア州にあり、州都・ミラノの東南東約75㎞のところに位置します。大河ポー川に隣接し、ポー川の水運によって楽器の材料が手に入りやすかったこと、優秀な製作者が多く生まれたことなどから、ヴァイオリン製作が盛んになり、そのことがクレモナを有名にしていきます。

人口約7万人という小さな街の中に、弦楽器の工房が80~90とも100以上とも言われています。工房は持っていないが、楽器製作者として活動している人が約200人、さらに楽器製作を学んでいる学生も多数存在し、全体で500~600人もの人たちが楽器製作に携わっています。まさに楽器製作の街です。

クレモナのヴァイオリン製作学校

クレモナのヴァイオリン製作学校は5年制
世界で唯一の国立のヴァイオリン製作学校です。日本でいうところの高専のような感じなので、一般科目も勉強しないといけません。授業時は全てイタリア語です

この学校に入学する学生は、すでに高校卒業資格、もしくは大学卒業資格が必要、ということになっています。聖司は中学校卒の資格しか持っていません・・・。その辺り、謎が残ります。

国立なので授業料は高額ではありませんが、生活費は自分で何とかしないといけません。それにこの学校を出たからといって資格が取れるわけではありません。ドイツには国家資格として「ヴァイオリン職人」というものがあります。

イタリアの「マエストロ」は誰でも名乗れるのですが、ドイツの「マイスター」はきちんとした国家資格の所持者ということになります。こういうところはさすがドイツっていう感じですね。

世界で活躍する日本人製作者

勉強熱心でまじめな日本人の気質は、集中力と器用さを必要とするヴァイオリン製作において、とても有利に働きます。難関と言われる製作コンクールにおいて受賞し、その実力を認められている日本人製作者も出てきています。

聖司も目指しているであろう、実力ある日本人製作者を紹介していこうと思います。

製作コンクールには大小さまざまなものがあります。通常は公平を期すために審査員にはそれが誰の作品か分からないようになっています。どこの国の出身でも、誰の弟子でも、審査の条件は同じです。

特に難関のコンクールでは製作技術や音色について何度も厳しい審査が行われます。そういうコンクールで受賞するということは、作品そのものが認められた、ということを意味するのです。

2000年代に入って、弦額楽器製作の国際コンクールで注目を集めている3人の日本人製作者たちがいます。ほぼ同時期にヴァイオリンの聖地といわれるイタリア、クレモナへ渡った3人の日本人。

2006年ヴィエニアフスキーコンクール

https://www.violino45.net/
https://strings.miyajimusic.jp/item/ToshikazuAmano/
https://strings.miyajimusic.jp/item/AkiraTakahashi/

以上3氏です。

さらに印象深い出来事は、2007年のチャイコフスキーコンクールにおいて、菊田氏が1位、高橋氏が2位、天野氏が4位、と上位を日本人が独占したことです。

ほぼ同じ時期にヴァイオリンの聖地といわれるイタリアのクレモナへ渡った3人の日本人。留学からわずか10年の間に様々な国際コンクールでの受賞は、本当に驚異的です。

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